
「百聞は一見に如かず」と言うように、どれほど複雑な現象であっても、その振る舞いを直接「可視化」して捉えることは、一瞬にして我々に深い理解をもたらします。こういった意味で、顕微鏡をはじめとするイメージング技術は、我々の知覚や認識を大きく拡張する不可欠なツールとして、この数十年の間に飛躍的な発展を遂げてきました。
このような「静的」な構造の解明は、生命活動が営まれるための不可欠な基盤である一方で、生命の高次機能、例えば私たちの「思考」や「記憶」のメカニズムを理解するためには、この見取り図の上に、もう一つの重要なピース、すなわち「動的」な情報を重ね合わせる必要があります。生命のダイナミズムは、細胞と細胞が絶え間なく交わす「対話」によって生み出されています。そして、この対話において「声」の役割を担うのが、無数に存在する化学分子です。これらの分子は、ミリ秒といった刹那の間にナノスケールの空間を駆け巡り、次々と情報を伝達しています。もし、この化学分子の刹那の対話をリアルタイムで「観る」ことができたなら、生命の根幹、ひいては疾患の起源を包括的に理解するための極めて強力なツールとなるはずです。
では、このようにナノスケールでダイナミックに変化する化学的情報を、生きた状態のまま捉えるにはどうすればよいのでしょうか?我々はこの魅力的な課題に対し、「ナノ材料」と「生体分子」を融合させるユニークなアプローチで挑戦します。自然界が進化の過程で極めて高度な機能を発展させてきた一方で、科学技術は、生体の奥深くまで届く近赤外光を発するなど、自然界には存在しない稀有な特性を持つ人工ナノ材料(カーボンナノチューブなど)を開拓してきました。
我々の研究室では、これら人工材料の持つ「卓越した物理・光学特性」と、生体分子の持つ「高度な機能」を相乗的に融合させ、生体内の化学的な対話を光のシグナルへと変換する、これまでにないナノスケールのセンサをデザインします。この新しいツールによって、これまで暗闇に包まれていた生命現象の動的なピースに光を当て、生命システムの包括的な理解と、次世代医療への貢献を目指します。